ユニリーバのローリングフォーキャスト──精度と機動力を両立する8四半期予測のやり方

こんにちは、西崎俊です。
「FP&A Camp」では、管理会計やFP&Aについて情報を発信しています。
今回のテーマは、ユニリーバの事例から学ぶローリングフォーキャスト やり方です。「年次予算をやめて8四半期のローリングフォーキャストに移行した会社がある」という話、FP&Aをやっていると一度は耳にしますよね。ただ、日本語で「じゃあ実務でどう組み立てるの?」まで踏み込んだ解説は少ないと感じています。この記事では、公開情報で確認できるユニリーバの設計を出発点に、対象期間の決め方・更新サイクル・ドライバーモデル・年次予算との併存・ツール運用まで、順番に整理していきます。
📌 このガイドで得られること

想定レベルは、FP&Aの実務経験が1年以上ある中級者です。予実分析や予算取りまとめを一通り経験していて、「そろそろ予測プロセスそのものを設計する側に回りたい」という方を念頭に置いています。
読み終えたときに持ち帰れるのは、次の4つです。
- ユニリーバが2010年に採用した8四半期ローリングフォーキャストの構造と、その背景にある事業条件
- 更新頻度(月次/四半期)と予測期間(4〜8四半期 or 12〜18ヶ月)を、自社の条件から逆算して決める判断基準
- ドライバーベースモデルを「粒度で失敗しない」ように作る手順
- 年次予算を残したまま移行する現実的な併存プランと、Excel/EPMでの運用フロー
所要時間は15〜20分ほど。手を動かすフェーズに入る前の設計図として使ってもらえる内容です。
ユニリーバの社内プロセスの詳細(誰が何を入力し、どのシステムで回しているか)は公開情報では確認できません。本記事では、確認できる範囲の事実と、そこから設計上どう考えられるかという私の解釈を明確に分けて書きます。
🧭 前提知識のチェック

読み進める前に、以下が頭に入っているとスムーズです。
- 予算(Budget)・予測(Forecast)・着地見込み(Latest Estimate)の役割の違い
- ドライバーベース・プランニングの基本発想(数量×単価のように、結果値を因数分解して置く)
- P&Lの構造と、売上から営業利益までのブリッジ分析
- EPM(Enterprise Performance Management)ツールが何をするものか、という程度の理解
逆に、「FP&Aとは何か」といった基礎はここでは扱いません。すでにご存知だと思いますので、設計論に集中していきます。
🏭 ユニリーバの8四半期予測──なぜこの形が成立したのか

確認できる事実
まず、公開情報で確認できる部分を整理します。ユニリーバは2010年に年次予算を廃止し、8四半期のローリングフォーキャストを採用しました。同資料は、この移行によって新たな競合環境への迅速な適応に必要な可視性と柔軟性を得たこと、そして公表時点ですでに陳腐化している年次計画に6ヶ月を費やす必要がなくなったことを挙げています。
もう1点、運用面で重要な記述があります。学術誌の論考によれば、ユニリーバのローリングフォーキャストはユニットレベルで、市場環境への対応責任を負うユニットのマネージャー自身によって更新されるとされています。ここが個人的にいちばん効いているポイントだと思っています。
なぜユニリーバの事業条件と噛み合うのか
ここからは私の解釈です。ユニリーバは毎日190カ国以上で34億人以上が製品を使用する規模の消費財メーカーです。この事業構造には、8四半期という期間設計と相性のいい条件が3つ揃っていると考えられます。
- 需要が繰り返し発生する — 日用品は購買頻度が高く、過去実績から次の四半期を推定する統計的な土台がある。プロジェクト型の受注ビジネスより予測誤差が小さくなりやすい。
- 意思決定リードタイムが1年を超える — 生産設備、原材料調達、大型ブランドキャンペーンは、4四半期先までしか見えていないと判断できない。8四半期(=2年)は投資判断に必要な射程です。
- 市場ごとの変動要因がバラバラ — 190カ国以上で為替・原材料価格・競合動向が個別に動く。本社が一括で予測するのは物理的に無理があり、ユニットのマネージャーが更新する設計に必然性がある。
そのまま真似できない前提
成功事例として持ち上げるつもりはありません。この形が成立している前提を、正直に書いておきます。
年次予算を「廃止」できたのは、業績評価とインセンティブ設計を予算から切り離せたからだと考えられます。日本の事業会社で、期初にコミットした予算数値が賞与・評価に直結している場合、予算を消すと評価制度そのものが宙に浮きます。ここを触らずにフォーキャストだけ導入すると、単に作業が二重になるだけで終わります。
もうひとつ。ユニットマネージャーが自ら数字を更新するには、ビジネス側に「予測は財務の仕事ではない」という文化が要ります。ここは制度より時間がかかる部分です。私の感覚では、ここで折れる会社がいちばん多いですね。
以下は、伝統的な年次予算とローリングフォーキャストの構造上の違いを整理した図です。

📅 ローリングフォーキャストのやり方①──期間と更新サイクルを決める

設計で最初に決めるのが「どれだけ先を、どの頻度で見るか」です。ここを感覚で決めると後工程が全部ぶれるので、判断基準から入りましょう。
予測期間の相場観
実務上のベンチマークは、おおむね一致しています。当四半期の実績から先の4〜8四半期を予測するのがベストプラクティスとされます。別の整理では、四半期または月ごとに4〜6四半期、あるいは12〜18ヶ月先を見通す形が示されています。
つまり、12〜18ヶ月がボリュームゾーン、24ヶ月(8四半期)がユニリーバのような長期投資型の上限、という理解でいいと思います。
期間を決める3つの問い
どこに着地させるか。私は次の3つを順番に確認するようにしています。
- 問い1: 最も長い意思決定のリードタイムは何ヶ月か — 設備投資、採用計画、長期購買契約。この最長値をカバーできない期間設定は意味がありません。
- 問い2: 予測誤差が実用に耐える限界はどこか — 過去のフォーキャスト精度を四半期ごとに測り、誤差が意思決定に使えないレベルに膨らむ地点を見つける。SaaSなら5四半期先でも読めますが、受注型の製造業だと3四半期で怪しくなることもあります。
- 問い3: 現場が入力を継続できる負荷か — 8四半期分を月次で更新すると、現場は年12回×24ヶ月分の数字に向き合います。これは相当な負荷です。
更新頻度の選び方
更新は月次か四半期かが一般的で、最新データと市場環境を反映するために定期的にリフレッシュされます。どちらを選ぶかの判断軸を表にまとめます。
| 判断軸 | 月次更新が向くケース | 四半期更新が向くケース |
|---|---|---|
| 事業の変動速度 | 需要・価格が月単位で動く(EC、消費財、コモディティ) | 四半期単位で契約・受注が動く(BtoB、サブスク) |
| 実績確定の速さ | 月次決算が5営業日以内に締まる | 月次締めに2週間以上かかる |
| 現場の工数 | 入力の大半が自動連携済み | 手入力・ヒアリング依存が残る |
| 意思決定の頻度 | 月次で資源配分を見直す運営体制 | 四半期の経営会議が主要な意思決定の場 |
| 導入初期の推奨 | データ基盤が整ってから | まずはここから始めるのが現実的 |
実務的な折衷案として、直近2四半期は月次粒度、それ以降4四半期は四半期粒度という混在型も選択肢になります。近い期間は細かく、遠い期間は粗く。精度と工数のバランスとしては、これがいちばん現実的ではないでしょうか。
以下は、期間と更新頻度を決めるまでの判断の流れを示した図です。

期間と頻度は、決めたら1年は変えないでください。半年で変えると、過去のフォーキャスト精度が測定できなくなります。精度改善のループを回すには、まず定点観測が必要です。
⚙️ ローリングフォーキャストのやり方②──ドライバーベースモデルを組み立てる

期間が決まったら、次は中身です。ここで「勘定科目を全部並べて埋めてもらう」設計にすると、ほぼ確実に破綻します。8四半期先の販促費を勘定科目レベルで書ける現場マネージャーは、まずいませんよね。
ドライバーを絞り込む
ドライバーベースモデルの本質は、P&Lの結果値を、現場が実感を持って答えられる少数の変数に置き換えることです。消費財ビジネスなら、たとえばこう分解します。
- 売上 = 販売数量 × 平均販売単価
- 販売数量 = 配荷店舗数 × 店舗あたり販売数 × 販促実施率の影響
- 売上原価 = 販売数量 × 単位原価(主原料価格 × 使用量 + 加工費)
- 販促費 = 売上 × 販促比率(ブランド別に設定)
- 物流費 = 出荷数量 × 単位物流単価
ここでのコツは、ドライバーの数を1事業あたり10〜15個に抑えることです。多いほど精度が上がるように思えますが、実際は逆になりやすいですね。入力者が疲弊し、深く考えずに前期コピーで埋める箇所が増えるからです。
粒度を「意思決定の単位」に合わせる
もうひとつの失敗パターンが、粒度の作り込みすぎです。SKU単位で8四半期先まで予測しても、2年先のSKU構成は変わっています。
粒度の判断基準はシンプルで、その単位で資源配分の意思決定をするかどうかです。ブランド単位で予算を振るならブランド粒度、チャネル単位で判断するならチャネル粒度。意思決定しない粒度で予測を作ると、精度も上がらず工数だけ増えます。
ドライバーの感度を測っておく
モデルを組んだら、必ず感度分析をかけます。各ドライバーを±5%動かしたとき、営業利益がいくら変わるか。この一覧があると、経営会議での議論が「どの数字が動いたか」から「どのドライバーに手を打つか」に変わります。
私の経験では、感度上位3つのドライバーで営業利益変動の7〜8割を説明できるケースが多いです。そうであれば、更新時にレビューを厚くすべきはその3つだけ、と割り切れます。
以下は、ドライバーベースモデルの階層構造を示した図です。

🔀 ローリングフォーキャストのやり方③──年次予算とどう併存させるか

ユニリーバは年次予算を廃止しましたが、日本企業でいきなり同じことをするのは現実的ではないと思います。取締役会の承認プロセス、株主向けの業績予想、賞与原資の算定。予算が制度に埋め込まれているからです。
役割を分ける、という考え方
おすすめは、廃止ではなく役割分担です。予算とフォーキャストに別々の仕事を割り当てます。
| 観点 | 年次予算 | ローリングフォーキャスト |
|---|---|---|
| 目的 | 目標設定・資源配分の承認 | 着地見込みの把握と早期打ち手 |
| 更新 | 期初に確定、原則固定 | 月次または四半期で更新 |
| 期間 | 会計年度内 | 常に12〜24ヶ月先まで |
| 粒度 | 勘定科目レベルまで詳細 | 主要ドライバー中心に簡素 |
| 評価との関係 | 業績評価の基準として使用 | 評価には直接使わない |
| 作成主体 | 財務主導で全社集約 | 事業部門が主体、財務は設計・検証 |
フォーキャストを評価に使わない——ここを制度として明言することが、移行の成否を分けます。予測が評価に直結すると、現場は必ず低めに出します。サンドバッグ化した予測は、経営判断の材料になりません。
移行の3ステップ
いきなり全社展開せず、段階を踏みます。
- フェーズ1(6ヶ月): 1事業でパイロット — 変動が大きく、経営の関心が高い事業を選ぶ。予算は従来どおり並走。
- フェーズ2(6〜12ヶ月): 予測を経営会議の主要資料に — 予算対比とフォーキャスト対比を両方出し、議論の重心を後者に移す。
- フェーズ3(12ヶ月以降): 予算プロセスを簡素化 — 予測が信頼されるようになったら、予算の作成粒度を落とし、策定期間を圧縮する。
ユニリーバが年次計画に6ヶ月かけていた状況から脱したという記述は、フェーズ3の到達点にあたります。日本企業でも、予算策定が前年10月頃から始まり4〜5ヶ月かかるのは珍しくありません。ここを圧縮できれば、それだけでFP&Aの生産性は大きく変わりますよね。
🖥️ ローリングフォーキャストのやり方④──Excel/EPMでの運用フロー

設計が固まっても、運用が回らなければ意味がありません。実際の月次サイクルを、日付ベースで組んでみます。
月次更新の標準スケジュール(月次締めが第5営業日の場合)
- 第1〜5営業日: 月次実績の確定。FP&Aは待機せず、前月の予測差異の要因整理を先に着手
- 第6営業日: 実績をモデルに取り込み、ドライバー実績値を自動更新。ベースラインの予測を機械的に再計算
- 第7〜9営業日: 事業部門へベースラインを提示し、ドライバーの修正を依頼。ゼロから埋めさせず、「変えるところだけ変える」形にする
- 第10営業日: FP&Aがレビュー。感度上位のドライバーを重点確認し、前月からの変化を要因分解
- 第11〜12営業日: 経営会議資料の作成。予算対比・前回予測対比のブリッジを提示
ポイントは第7営業日の設計です。白紙を渡さず、機械が計算したベースラインを渡す。現場の作業は「入力」から「修正」に変わり、所要時間が大きく下がります。
Excel運用とEPMツールの分岐点
「Excelでやるべきか、ツールを入れるべきか」はよく聞かれます。私の整理はこうです。
| 条件 | Excel継続で足りる | EPMツール導入を検討 |
|---|---|---|
| 入力部門数 | 10部門以下 | 20部門以上 |
| 予測期間 | 12ヶ月まで | 18〜24ヶ月 |
| 更新頻度 | 四半期 | 月次 |
| シナリオ本数 | 1〜2本 | 3本以上を常時管理 |
| 集計工数 | 2営業日以内で完了 | 集計だけで1週間かかる |
Excelで始めること自体は悪くありません。むしろ、モデルのロジックが固まっていない段階でツールを入れると、間違った設計を固定化してしまいます。まずExcelで3〜4サイクル回し、ドライバー構成が安定してからツール化する——この順番を私は推奨しています。
精度改善のループを回す
運用で最も軽視されがちなのが、予測精度そのものの測定です。実績に対する差異分析は、FP&Aのベストプラクティスとして予測の有効性と精度を測る手段だと位置づけられています。
具体的には、次を毎月記録します。
- 1四半期前の予測と実績の乖離率(部門別・ドライバー別)
- 乖離の方向(常に強気か、常に弱気か)
- 乖離要因の分類(市場要因/自社要因/モデル要因)
3サイクルも溜まると、部門ごとのクセが見えてきます。「A事業は常に売上を10%高く出す」と分かれば、レビュー時にそこを重点的に詰められます。これはツールがなくても、Excel1枚で始められる取り組みです。
🤔 よくある質問

| 質問 | 回答 |
|---|---|
| Q1. 8四半期は長すぎませんか? | 意思決定リードタイムが1年以内の事業なら長すぎます。ユニリーバは設備・調達・ブランド投資が長期にわたる消費財メーカーであり、その条件下での設計です。多くの日本企業では12〜18ヶ月から始めるのが現実的だと考えます。 |
| Q2. 予算とフォーキャストの二重管理で工数が増えませんか? | 初期は増えます。ただし、フォーキャストの粒度を予算より粗くし、ベースライン自動計算を用意すれば、追加工数は抑えられます。フェーズ3で予算側を簡素化するのが前提の設計です。 |
| Q3. 現場が予測を出したがりません。 | ほぼ確実に、予測が評価に使われる懸念が原因です。評価と切り離すことを制度として明文化し、経営層から発信してもらうのが最短ルートだと思います。 |
| Q4. ドライバーはどうやって選べばいいですか? | 過去2〜3年の実績を回帰的に見て、P&Lへの説明力が高い変数から選びます。同時に、現場が「自分でコントロールできる」と感じる変数であることが条件です。説明力があっても操作不能な変数は、入力のモチベーションが続きません。 |
| Q5. 精度はどのくらいを目標にすべきですか? | 絶対的な目標値を先に置かず、まず現状のブレ幅を3サイクル測ってください。その上で「1四半期先の乖離率を前年比で改善する」という相対目標にすると、現場も納得しやすいです。 |
🚀 次のステップ
ここまでで、ローリングフォーキャスト やり方の全体像は掴めたのではないでしょうか。最後に、明日から着手できるアクションを3つ挙げます。
- 自社の意思決定リードタイムを棚卸しする — 設備投資、採用、長期契約。それぞれ何ヶ月前に決めているかをリスト化する。これが予測期間の下限になります。
- 過去1年のフォーキャスト精度を測る — すでに着地見込みを作っているなら、その乖離率を部門別に集計してみてください。設計の出発点になります。
- 1事業でドライバーを10個書き出す — 完璧を目指さず、まず紙に書く。事業部門の担当者と一緒にやると、認識のズレが早い段階で見つかります。
ユニリーバの8四半期予測は、事業条件と評価制度が揃って初めて成立した形です。そのまま輸入するのではなく、「期間・頻度・粒度を自社の意思決定から逆算する」という設計思想を持ち帰るのが、いちばん再現性のある学びだと私は考えています。
FP&A Campでは、予算策定・予測・差異分析・財務モデリング・ビジネスパートナリング・キャリア構築の6領域について、外資系FP&Aの実務目線で解説しています。ローリングフォーキャストのドライバー設計やモデリングの具体論も、今後さらに掘り下げていく予定です。あまり難しく考えず、まずは自社の1事業から手を動かしてみてはいかがでしょうか。